札幌地方裁判所 昭和31年(行)2号 判決 1956年5月01日
原告 酒井ミツ
被告 北海道知事
主文
本件訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の申立
原告訴訟代理人らは、被告が昭和二十七年十月十日を売渡の時期として別紙目録記載(一)ないし(八)の各土地(以下本件(一)ないし(八)の土地と称する。)につき同上記載の各売渡の相手方に対してした売渡処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、
被告指定代理人らは、主文同旨の判決を求めた。
第二当事者の主張
(原告の請求の原因)
一 本件(一)ないし(八)の土地はいずれも原告の所有地であるところ、被告は右土地をいずれも昭和二十七年十月十三日付北海道第二六回第一五〇二九号をもつて買収の時期を同年同月十日とする農地買収処分を行い、右買収令書は昭和二十九年九月七日原告に到達した。しかして、被告は、右土地を、いずれも昭和二十七年十月十日を売渡時期として別紙目録記載の金井鉄蔵ら八名(売渡の相手方。)に対しそれぞれ売渡処分を行い、昭和三十年八月二十日その旨の所有権移転登記手続がされた。
二 ところで農地買収処分は買収令書の交付によつてその効力を生じるから、本件買収処分は昭和二十九年九月七日にその効力を生じ、したがつて、同日、政府が本件(一)ないし(八)の土地の所有権を取得した筋合である。それであるから本件売渡処分は政府が所有権を取得する前にされた無権利者の処分で、当然無効であるので、その確認を求める。
(被告の本案前の抗弁)
被告は、原告の所有地であつた本件(一)ないし(八)の土地につき買収の時期を昭和二十七年十月十日と定めて買収処分を行い、右同日を売渡時期として右土地をそれぞれ金井鉄蔵ら八名の者に売り渡したのである。もつとも、右土地について樹てられた買収計画につき原告主張のような取消訴訟が釧路地方裁判所に係属してはいるけれども、原告は本件訴訟においてはすでになされた右買収処分および売渡処分のうち売渡処分のみについてその無効確認を求めているのであるから、仮りに原告の請求が容認されても、本件(一)ないし(八)の土地は右売渡処分が無効であることによつて一たん国有農地となるだけであつて、その後は農地法第三十六条以下の規定によりそれぞれ適当な相手方に再び売渡処分がされるのであつて、原告の所有地となるものではない。したがつて原告は本件訴につきその利益を有しないから当事者適格を欠くのである。
(被告の本案前の抗弁に対する原告の答弁)
被告の主張は否認する。本件(一)ないし(八)の各土地について樹立された農地買収計画に対し、その取消を求めるため、原告は釧路地方裁判所に右計画の取消訴訟を提起し、現に同裁判所昭和二十八年(行)第一号として係属し審理中であるが、右事件と本件は訴訟物を異にするは勿論同事件において原告勝訴の判決を得た場合被告において当然には本件売渡処分を取り消さないから、原告は、右取消訴訟と別個に現在において本件売渡処分の無効の確認を求める利益を有するのである。
第三証拠関係<省略>
理由
原告は、「被告が本件(一)ないし(八)の土地について行つた農地買収処分の買収令書は昭和二十九年九月七日原告に到達したから、政府は同日右土地の所有権を取得した。しかるに被告は右土地を昭和二十七年十月十日を売渡の時期として売渡処分を行つたから、政府が所有権を取得する前にした無権利者の売渡処分として当然無効であるので、その確認を求める」と主張する。
ところで、確認の請求は当事者間における現在の権利関係の存否に関する主張であることを要し、将来発生するであろう法律関係については、その確認を求めることはできない。したがつてまた、その存否について、現在即時に判決で確定することにつき、原告において、法律上の利益または必要のある場合に限つて許されるのであつて、このことは行政処分の無効確認請求訴訟においても同様である。
原告は、本件売渡処分の基礎である、本件(一)ないし(八)の各土地について樹立された農地買収計画につき、釧路地方裁判所に対しその取消訴訟(同裁判所昭和二八年(行)第一号)を提起し、同裁判所が審理中であるところ、右は本件と訴訟物を異にするばかりでなく原告が右取消訴訟において勝訴の判決を得た場合、被告は当然には本件売渡処分を取り消さないから、現在その確認を求める利益を有すると主張する。そして、右取消訴訟が同裁判所に係属し、審理中である事実は当事者間に争がない。
しかしながら、原告の右主張は結局原告が将来右取消訴訟に於て勝訴判決を得た場合を前提として本件売渡処分の無効確認を求めるのであつて、このような訴は、前説示の理由により許されないものといわなくてはならない。
以上の次第で、他に原告において本件売渡処分の無効確認を求める正当な利益もしくは必要があることにつき肯認するに足りる主張、立証のない本件においては、原告の訴はその利益を欠くものとして被告の抗弁について判断するまでもなく失当として却下すべきものといわざるを得ない。
よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 小野沢竜雄 吉田良正 秋吉稔弘)
(別紙省略)